GEPEC便り 8月号 - no.5 –

残暑お見舞い申し上げます。8月も残り1週間となりましたが、皆様、夏休みで鋭気を養われた事と存じます。
今月号は、「英語の曖昧さに関して」と17日に開催されたGEPECのSkype理事会の報告をお送りします。

1)英語の曖昧さに関して:
生前DBは「英語は、曖昧な表現が多く、科学(science)規格・仕様(specification)を記述するのにふさわしい言語ではない。」とよく言っていました。かと言って、他に英語よりふさわしい母国語があるとも思えず、数字用語(ma, ta, mi, me, mo,,などのdigital language)を開発する事になったのだと思います。今回私はpd普及の会のセティシャイ先生が執筆された教材を英訳させて頂いたのですが、英語の曖昧さを痛感した事例をご紹介いたします。

「第1指、第2指、第3指」はなんと英訳する?
日本語では、手も足も、指は指、普段の会話では「親指、人指指、なか指、薬指、小指」と呼び、研修コースでは第1指、第2指~となっていて、簡潔です。
ところが英語では第1指(親指)=First finger ではないのです。親指はthumb、残りの指がfingersなのです。(注:手には5本指があるという場合は、5 fingersと言ってよいが、単独では親指をfinger とは言わない。)上記の英訳は、「Thumb, 2nd and 3rd fingers」が正解なのです。でも、指は常に2nd fingerから始まるというのは、ちょっと違和感がありませんか?First finger はどれなの?と言いたくなります。さらに足指は foot fingersではなくて、toes (あるいはdigits of foot)なのです。さらにtoesには「つま先」という意味もあります。ちなみに、つま先立ちで踊るバレーの靴を、日本語でトゥシューズ (toe shoes)と呼んでいます。tongue は舌でも、mother tongue は母親の舌ではなく、母国語です。日本語ではデジタルという語がよく使われますが、digitには数字と、指という2つの意味があります。元々は指が語源で、指で数える→数字という意味が派生したようです。
Wikipedia: digitは、ラテン語で「親指以外の手指」を意味するディギトゥス (digitus) に由来する(英語のfinger にあたる。
(尚この疑問について、言語学者であるDBの姪に問い合わせました。ピアノの教育では、唯一の例外として親指を1st finger と呼ぶそうです。) “GEPEC便り 8月号 - no.5 –” の続きを読む

GEPEC便り 7月号 -no.4 –

前略。GEPEC事務局とpd普及の会事務局は、8月より新しい共同事務所に転居しました。両組織の協力関係が強化される事によって、pdの普及活動が成果をあげるように、祈念いたします。GEPEC事務局 三明

新住所:大阪市淀川区西中島6-3-32第2新大阪ビル 611号室

今回はグローバル・ネットワークのウェブサイトのフロント・ページの図をご紹介します。是非ウェブサイトを閲覧なさってください。http://www.systematiccare.net

小さな人体の図が縦に並んでいますが、最も上の仰臥位の図にご注目ください。片方の膝が立っている事に気づかれると思います。就寝時やくつろいでいる時のように、歯科治療のために患者さんが診療台に仰臥する時も、「その人が最もラクに感じる姿勢を取ってよいのだ」という意味がこめられています。水平治療を表す写真や図には、患者さんが仰臥位で「気をつけ」をしているような堅苦しいイメージのものが多いですが、DBは生前、頭部の位置が適切に保たれていれば、胴体・四肢はラクにしてよいし、高齢者の方などで側臥位でなければ横になれない場合は(術者の条件は最適ではないかもしれないが)それも許容されると、言っていました。 “GEPEC便り 7月号 -no.4 –” の続きを読む

GEPEC 便り 6月号 -no.3-

3年前の7月2日に撮影したDBの写真(89才):当時はまだ元気で、雨が降っても風が吹いても週5日LANセンターに出社していました。               cid:image002.jpg@01D41229.BFCDC640                                  

皆様のお手元に「pd普及の会支援のお願い」レターが届いていると思いますが、この中で「pd普及の会とGEPECの強固な連携」が述べられています。そこで、今回も再度GEPECのねらいは何か、またGEPECとpd普及の会の関わりについて考察したいと思います。

GEPECの目標:

毎月どこかで歯科関連のセミナーや講演会が開催されています。それらの多くは、KB1,2,3の分類でいうと、Kb2.2(治療手順)、 2.3(テクノロジーの機能)に関する新情報の提供や実習ですが、特定の製品の販売促進が抱き合わせになっている事が珍しくありません。企業が主催・共催するセミナーは製品が売れればMission Completedであって、購入者=歯科医師の診療がどう変わったのか、治療のoutcomeは改善したのか、変化なしなのかは、考慮の外側(out of scope)です。(注:このout of scope という表現は日本の企業もよく使うようになってきたように感じます。「そんなの関係ない。」というより“聞こえ”がいいからかもしれませんね。)また企業とは独立したスタディ・グループや歯科学会も、色々なセミナーを各地で開催していますが、やはりセミナー開催が end pointという感じが否めません。

他方、GEPECは「研修屋さん」ではありません。人的リソースが極めて限られているので、Kb 2の分野は out of scopeとしています。新規の治療手順やテクノロジーについて、果たして適応があるのか、導入すべきなのかというKb2の問題はヘルスケアにとって非常に重要ではありますが、世界中の専門家たちが参加して行うコンセンサス会議ですら統一見解を出せない現状において、GEPECが単独で取り組むことはとうてい無理だからです。 “GEPEC 便り 6月号 -no.3-” の続きを読む

GEPEC便り 5月号 no.2 ーなぜデンタル・チェアはダメなのかー

今回は、今年2月タイ、チェンマイで開催されたGEPEC Global Meetingにおいて発表されたDr David Blancのプレゼンテーションの抜粋をご紹介します。

Dr David Blancは歯科医師であり、理学療法士、オステオパシーの療法医であるという珍しい経歴をお持ちのフランスの開業医です。Dr Beachと個人的な面識はなく、日本で行われた外国人向けのpdコースを受講された事もないのですが、数少ないDrビーチ関連の文献を読まれたのが、理学療法士の立場からDrビーチが提唱するpdのアプローチに関心を持つに至ったきっかけだと伺いました。またフランスにはDrビーチとも親交があったDr PierreFarreGEPEC理事)がいらっしゃるので、現在は二人でpdの普及活動を主宰されています。「背板の倒れるチェアが何ゆえに患者にとってマイナスなのか、pdではないのか」という点について、Drビーチは、「自分の体の位置決めは、自分で行う=セルフ・コントロールが最も自然であり、身体障害のある人にとっても最も安心である」と主張してきましたが、Dr Blancは同じ事を人体の生体力学の側面から解説されたのが、私にとってはとても新鮮な切り口に思われました。先生の発表は動画、アニメーションを含むPPTのため膨大なサイズになる事と、会議中の録音の音質が悪く書き下ろせなかったために、スライドのみ、私の独断で枚数を減らして抜粋しました。関心がある方は、Dr David Blancでネット検索して頂ければ、先生の研究論文が出てきます。Websitewww.ergonomie-dentaire.com/en/ です。

Dr Blanc slides

 Dr Blancは術者や患者の身体のbest conditionsという観点からpdをとらえてこられました。スライドの「ノート」にも注釈をつけましたように、フランスで勢力的にpd普及活動を行っておられますが、「私たちがフランスで行っているのは、日本で行われているような「教育」(pd研修コース)ではなく、その前段階としての「普及」活動だと考えている、また、口腔内の精密な治療を行う上でのpd条件については、私自身、これからもpdコースを受講して勉強していきたい」とおっしゃっていました。

追記:

 ハムストリング(hamstring femoris):

 膝が延びている時は 伸展(緊張); 膝が曲がっている時は、弛緩

 

 

 

 

 

 

下の 図(上)デンタル・チェアでの仰臥位:大腿直筋 伸展(緊張)、腰椎前湾

下の図(下)テーブル・タイプ診療台での完全な仰臥位:大腿直筋 弛緩

 

図説)ハムストリングは、腰から膝までの下肢後面を通っている。腰が曲がり膝が伸びている時、ハムストリングは伸展(緊張)する。従って下腿(膝から下)を伸ばしたままでは、腰部で代償しない限り、座位を取ることはできない。そのために、デンタル・チェアは膝を曲げられるように角度(膝折れ)が付いている。

 しかし、デンタル・チェアのこの特徴は、仰臥位の際に大きな欠点を生じる。ハムストリングの拮抗筋である大腿直筋は、腰から膝までの大腿部前面を通っている。大腿直筋は、膝が屈曲し、腰が伸展している時に伸展(緊張)する。従って、膝が屈曲したままであれば、腰椎前湾という苦痛な代償なしに完全な仰臥位を取ることはできない。したがって下肢のサポートは平らでなければならないのである。このような理由から、デンタル・チェアは仰臥位とは決して相容れないものである。

 

 

 

GEPEC便り 4月号 no1

今月から「GEPEC便り」とさせて頂きます。皆様にGEPECの活動をご報告させて頂く事で、pd普及の会との懸け橋になる事ができれば幸いです。

DBは生前「自分が生涯をかけて開発・考案してきた知的財産は全てGEPECに委ねる」と申しておりました。そのDBが残したpdに関する情報をさらに発展させ、世界に発信するというGEPECの目的に是非ご協力頂きたく思います。

*GEPEC ニュース:2018年4月

4月13日今年3回目のGEPECのSkype理事会が行われ、フランスのDr Laffontと日本のセティシャイ先生が新理事として承認されました。

その結果、理事会は7名になりました。(理事長Dr Mike Dougherty(米), Dr Wolf Neddermeyer(独), Dr Pierre Farre(仏), Dr Jacques Verre (インド)、石田先生、Dr Jean-Michel Laffont(仏)、セティシャイ先生(日本))。

GEPECとpd普及の会の関係がよく分からないというご指摘を頂きましたので、今回は2006年2月に発信した内容を再掲載させて頂きます。GEPECについて、是非ご質問やご意見をお寄せください。

*GEPEC設立の動機と契機:(2006年2月3日配信) “GEPEC便り 4月号 no1” の続きを読む

DB便り 3月号 no.12 -Key words 変遷の経緯ー

前略。3月もあっという間に過ぎてしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか?今年は桜の開花が随分早く、関西ではすでに満開です。

DBはDr.Changeというニックネームを頂くほど、キーワードを色々変えてきましたが、決して気まぐれに表現を変えたわけではなく、意味するところが経年的に変遷してきました。

そこで、今回はどういう背景・理由で変化してきたのかという事について、私の理解する範囲で振り返ってみたいと思います。

1960年代~1970年代のキーワードは、Home Positionでした。これは先生方にとって、とても分かり易い表現だったと思いますが、実はDBの造語ではなく、当時テクニカル・ライターとしてDBが雇用していたhuman engineer (人間工学の専門家)であるMr Leo Perkinsが提案した表現でした。Mr Leo Perkinsは英字新聞に掲載した求人広告に応募してこられた唯一の方だったと聞いていますが、後には明海大学で長く教鞭をとられ、名誉教授になられました。

その後 Performance Logicというキーワードが出現します。

1971年、そのキーワードを冠したHPI研究所 (Human Performance Institute:のちにHuman performance & Informatics Institute に改名)が創立されました。また1978年、HPIヘルスケア・モデルが設立されました。 “DB便り 3月号 no.12 -Key words 変遷の経緯ー” の続きを読む

DB便り2月号 -no.11-

pd普及の会の皆様、

前略。春が待ち遠しい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?今月は2月9日~12日タイのチェンマイで開催されたGEPEC会議のご報告をさせて頂きます。

主催:ICOH(Inter-country Center for Oral Health)

日時:2018年2月10日~12日

場所:チェンマイHoliday Inn およびICOH、参加者:20名

会議中に発表されたPPTスライドは以下にアクセスするとダウンロードできます。http://icoh.anamai.moph.go.th/main.php?filename=PD2018

日本からは石田先生(GEPEC理事)とセティシャイ先生が参加され、Ms鈴木、Ms川口と三明も参加しました。

GEPEC meeting 180210-12写真と概要

プログラムGEPEC meeting program final

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マズローの欲求段階説

私は森田福男氏から初めてマズローの事を聞いた。マズローは企業や大学など組織のトップに立つ人達にモチベーションに関するセミナーを提供していた。福男氏は私のモチベーションについて理解したいと思い、セミナーに参加したとの事だった。

当時モリタ社は私に多額のロイヤリティ費を支払っていたのだが、私は大して注意を払わなかった。私のモチベーション(動機づけ)は自分自身の好奇心に基づくものであり、思う通りに前に進んでいく事だった。企業の長に対するマズローの基本的なアドバイスとは、私のようなモチベーションを持つ人間は雇用しないようにというものだった。

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愛国心ではなく、愛球心を

Daryl Beachは愛国心や国益の大義名分をかざす政治家たちを嫌悪していました。世界に広がる右傾化の情勢を憂えていました。

また生前に彼はよく言っていました。「僕は、いい時代に生きられて幸運だった。子供時代の辛さを思えば、それ以降の人生は楽園だった。僕の子供時代を知りたければ、スタインベックの「怒りの葡萄」(The Grapes of Wrath) を読んでほしい。そっくりそのままの人生だったから。僕たちは、人間社会は過去より現在、現在よりは未来の方が豊かになる、良くなると信じていた最後の世代だ。これからの世界で生きていかねばならない、僕の孫たちやそれ以降の世代は、本当に気の毒だと思う。物質的な豊かさの頂点に生まれてきて、何かが抜本的に変わらない限り、それ以上良くなる事など望めないのだから。」

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人間の存在:在る事と為す事

 

人間の存在を円で表すと、大きな円(Being在ること、存在すること)の中に、すること・行うこと(Doing)の円、つまり目的をもつ行為(Human Performanceが含まれる。Doの円がBeの大円からはみ出ている点線部分は、存在に反する行為を表している。    130813